#11 森林もひとつの生き物という
「恒続林」という考え方

Yohakuのプロダクトで使うヒノキオイルは、三重県尾鷲産のもの。#10では、尾鷲を訪ね、江戸時代からのヒノキ林が残る熊野古道を歩き、林業にまつわる資料館を見学しました。

#11では、森林組合の方とともに森を歩き、「尾鷲のヒノキ林業」について学びます。

 

yohaku column Yohakuで使うヒノキを訪ねて

「尾鷲でヒノキ林業がさかんになった理由がわかる場所へ行きましょうか」と、森林組合の組合長・濱田さんと堀内さんが連れてきてくれたのは、森ではなく海でした。

 

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「海面から急に、山がそびえるように屹立しているでしょう。尾鷲は、傾斜が急な土地ばかりで平地がとても少ないんです。稲作に向かないので、かわりに林業が発達したんですね」(濱田さん)
紀州藩の奨励により林業が発展し始めたのは1620年代から。2代目将軍、徳川秀忠の時代です。尾鷲の木材は、船で江戸をはじめ関東方面へと運ばれて行ったそう。

「この海と山の位置関係が、雨が多い尾鷲の気候の理由なんです」
熊野灘に面し、背後に紀伊山地を擁する尾鷲。熊野灘の沖合には暖流の黒潮が流れ、一年中暖かく湿った空気を上昇させる。それが海風により運ばれ、紀伊山地の山肌を昇って雲となり、雨となるのだとか。雨が地面から跳ね返り、「尾鷲の雨は下から降る」といわれるほどの大雨が降ることも。

「急峻地と大雨が、ヒノキ林業につながるんです。最初は、スギを多く育てていたらしいんです。でも、傾斜地に大雨が降ると土が流れてしまい痩せ地になるんですね。肥沃な土地を好むスギには向かないんです」

とはいえ、ヒノキにとっても痩せ地は不利な条件なのでは?

「たしかに生長は遅くなります。それを逆手に取って、苗木を密植するんです。あえて成長を遅らせ、間伐を繰り返し、ゆっくりと育てることで、緻密で均一な年輪幅が形成できる。結果、木目が美しいヒノキとなる尾鷲独自の技術が生まれたんです」

油分が多く、美しい光沢を持つとか。 尾鷲ヒノキは、心材に"カジノール"というヒノキらしい香りを持つ成分は多く含まれているそうで、もしかしたら、油分やカジノールの多さが香りの透明感につながるのかも? 「他の産地とヒノキの香りが違うと言われることは、確かによくあります。 その理由はわかりませんが、気候も土壌も違うからヒノキにも個性が出るんでしょうね」

 

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日本初のFSC森林認証制度を取得した森へ

次に、連れてきていただいたのは「大田賀山林」。 ここは速水林業という会社が所有するヒノキ林で、江戸後期以来長きにわたり、尾鷲ヒノキを育てている場所で、2000年に日本で初めて「※FSC森林認証制度」を取得したそう。

 

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「この森は、持続可能な森林経営のお手本として多くの見学者が来るんですよ」(濱田さん)

確かに、清々しくきれいな森です。でも、なにも知らない立場からすると、特別である理由がわかりません。

「たしかに、特別に見えないかもしれませんね」

 

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「ここはシダなどの下草は刈らず、広葉樹も意図的に残しています。人工林、木材生産の場ではありますが、多様性を大切にしている。自然の森に近いんですね」
1922年にドイツの林学者アルフレート・メーラーが提唱した『恒続林思想』にのっとり、森づくりをしているそう。「恒続林」とは森林を一つの生き物と捉え、自然のサイクルにのっとって林業を営む、というもの。また、メーラーの「最も美しい森林は、また最も収穫多き森林である」という言葉も教えてくれました。

美しい森林は、環境と経済の両立ができている、という意味。

林業は事業規模が大きいため、林業、製材所、森林組合、自治体、現場それぞれの立場が一体となって、美しい環境保全と経済の両立を目指さねばなりません。戦中戦後の復興のため植林が各地で進められた結果、4割が人工林となった日本では、放置され荒れた森林が問題ともなっています。

そのような状況のなか、持続的に美しい森林を守るための努力。その森林から生まれた木材を、商品に転換し、付加価値をつけさまざまな方向へ展開していく努力……。そこには一朝一夕にはできない大きな時間と労力があり、わかりやすく眼で見るように表に現れるものではないようです。

「植えたばかりの木にも、樹齢30年の木にも、100年の木にもそれぞれの用途があります。細い木も太い木も使っていくことが、持続的な森づくりにつながるんです」

植えたばかりの木にもできることがある。まだ若い細い木から抽出することが多いヒノキオイル。オイルの抽出が森林の保護の一部につながるのなら、こんなうれしいことはありません。

 

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文: 柳澤智子(柳に風)
撮影:宮濱祐美子