#1-2 土着化するようなプロダクトを作りたい

* 前編はこちらから。「今、新しくものをつくること

――「Yohaku」の原料には、ヒノキ、クスノキ、セダーウッドなど木から抽出した香りが印象的に使われています。中原さんは、インテリアデザインの材料として木と向き合ってこられました。木のどういうところに惹かれるのでしょうか?

僕は家具を作ってきたので、形から木というものに入ってるんですよ。30年くらいやっていますが、日本独特な木にしても、針葉樹にしても広葉樹にしても、それぞれ特徴があっておもしろい。

ドイツの森林管理官の人が書いたベストセラーで『樹木たちの知られざる生活』っていう本があるんですけど。これが本当に素晴らしい内容で。樹木の世界の弱肉強食のこと、水がなぜ山で手に入るか、木がそれにどうかかわっていうのか、木がどうして病気になるのか、病気になった木はどうなるのか。樹木のことがわかりやすい言葉でかいてあって、改めて木が持つ機能や可能性について感銘を受けました。

――材料だった木に、「生命」を感じるようになったんですね。

そうかもしれません。山小屋で暮らしていると暖炉用の薪も自分で割るじゃないですか。生木ってやっぱり生きているから、水分が多くて生々しいんですよ。割るときに生肉をさばくような感覚があって、えげつないことを自分がしているんだなっていう気になる(笑)。罪悪感とはいわないけど、不思議な感覚ですね。やっぱり肉を捌くのと近いのかな。 そういうときの匂い、乾いたときの匂い、燃やしたときの匂い。全部違うんですよ。葉っぱ1枚1枚の匂いも違って。

家具の材料の木だけでなく、最近、塗装のあり方も見直したんです。ウレタンで塗っていたようなものからは極力外れて、自然な塗装、オイル塗装が多くなりました。色をつけるのに鉄焙煎したり、酸化することの反応で黒くしたり。そういう自然現象を意識した方法を意識しています。

――自然現象ですか。

ものをつくる姿勢は、やきものから学んだ部分があるんですよ。薩摩焼って、もともと鹿児島のものに見えるけど、最初は朝鮮から九州に来た陶工たちがやきものを作るために白磁の材料を探すんですよね。朝鮮で使っていたような磁土を探すんですけど、見つからないわけですよ。陶工たちは鹿児島でいい材料を見つけて、朝鮮のような真っ白ではなくオフホワイトなんですけど、それを自分達の“白薩摩”としてやり始める。黒薩摩にしても黒じゃないっていうか、茶が入っている。そういう感じで落ち着く文化ってあるじゃないですか。いろんな背景が重なって、そこのものになっていくっていうか。作られたものが土着のものになるまでのきっかけ、流れっていうのに興味があって。今、自分がものをつくるにしても、どう「土着化」していくかをすごく考えますね。

――土着化というのはおもしろいキーワードですね。今回のアロマオイルを垂らして使うアロマストーンは、佐賀の肥前吉田焼と聞いています。肥前吉田焼も日本の磁器の発祥の地である有田のそばにあり、薩摩焼と同じく朝鮮にルーツがありますね。それにしても、菊炭とたまごの形状がユニークですね。

菊炭(切り口が菊の花のような模様の木炭)と卵の形をした肥前吉田に窯を持つ磁器ブランド「224porcelain」とのコラボレーションによるアロマストーン2種。オイルやミストを塗布し、パーソナルスペースを香らせる。

磁器発祥の地として400年以上の歴史を持つ佐賀県有田。磁器の製造は鍋島藩管轄の一大事業となり、上絵付けがさかんだった赤絵町を中心に内山、外山、大外山と区分されていた。肥前吉田焼は大外山に位置し、有田同様400年以上の歴史がある

長年培われてきた肥前吉田焼の技術を、柔軟な姿勢で現代のデザインに生かし、産地を牽引する存在である「224porcelain」。今回、アロマストーンのほかにディフューザーアロマポットも制作(試作品)。

Yohaku」は、国内だけでなくアメリカをはじめ海外でも販売するんですね。海外の人が日本に来た時にどういったものに求めるのかを、ずっとこの何10年か見てきたので、彼らになじみがあるものを作るよりは、日本にあるもので彼らの生活にいれてもおかしくないものを作りたかったんです。

日本の日めくりカレンダーって、あるじゃないですか。クラッシックなやつ。 僕らは破いて捨てるけれど、向こうの人たちは日本語がきれいに入っているグラフィックスがすごく好きみたいで。あげた人はみんな、破ってもきれいにとっているんですよね。それをまたパッケージングに使ったりとか。それがモダンなものに見えることってあるじゃないですか。ああいうのにはっとさせられるんですよね。卵つとで5つ包まれた卵も、イースターエッグとして使われているのを見たことがあったんですよ。これは、向こうの生活にもなじむな、と。菊炭は、茶道にも使われる木炭。切り口が菊のようで、均一に割れ目が入るのが理想といわれています。

――菊炭は実用と美しさをそなえていて、たしかに日本的ですね。卵型のアロマストーンのパッケージも、日本的な懐かしさを感じます。

本物の卵にしか見えないアロマストーン。卵はかつてはとても貴重だっため、贈り物、お見舞いの品として使われていたことがあり、保護と美しく運ぶために藁で作られたのが、「卵つと」。今回、岡山県倉敷の「須浪亨商店」で卵つとを制作してもらった。

宮崎のクスノキの葉を乾燥させたジャパニーズスマッジスティック。葉を燃やし立ち登る煙でその場を浄化るする、というネイティブアメリカンのスマッジを日本ならではの材料で制作。ほかに、ヒノキの葉も。5本が連なった姿は、壁にかけても美しいようデザインした。

日本には、もともと包む文化ってありますよね。岡 秀行氏が1940年に出版した『日本の伝統パッケージ』を英訳した「HOW TO WRAP FIVE EGGS」という本があって。随分前に、アメリカの家具のディーラーから教えてもらったんですハーマン・ミラーの当時のデザイナー、ジョージ・ネルソンも、日本の包む文化について書いているんですよ。あの本が僕のなかではずっと重要な一冊で、このプロジェクトやるときに役立つだろうな、とは思っていました。 僕は和菓子好きで、田舎へ行くと和菓子屋さんによく行くんですけど。和菓子の世界や食の世界では、包み方のいいものが残っているんですよね、新潟の鱒寿司、京都の稚児餅など箱も包み方も素晴らしい。 こういう昔からあるものを、今の技術と作る人と一緒に、うまく再編集できたらなって思います。

Profile

中原 慎一郎 Shinichiro Nakahara
1971年、鹿児島県生まれ。「ランドスケーププロダクツ」ファウンダー。オリジナル家具などを扱う「Playmountain」、カフェ「Tas Yard」などを展開。2019年より個人での活動として、鹿児島のクラフトウイスキー「嘉之助蒸溜所」のデザインディレクターを務める。

インタビュー・文: 柳澤智子(柳に風)
場所: TOKYO CRAFT ROOM