#3-2 日本の樹木の香りで自然の力を体内に

前編では樹木の専門家・谷田貝光克氏に「Yohaku」の香りを構成するヒノキ、クスノキ、スギについて。スギ、ヒノキは日本にしかない固有種であることや、『日本書紀』に登場するほど長いかかわりを持つことをうかがいました。 後編では、ヒノキ、クスノキ、スギが持つ香りの効能についてお届けします。

 Yohaku ヨハクコラム 谷田貝

* 前編はこちらから。「#3-1森と山の国、日本。『日本書紀』にも登場する木の誕生秘話・有効利用術

――前回、森林資源の有効活用のひとつに、精油採取があり、最近の自然志向、健康志向が強まるなかで、森林が持つ癒しの機能が注目されていると聞きました。

森林にリラックス効果があることは、ずいぶんと前から言われていますよね。森に入ったとき、木の香りってしますよね。この香り成分として有名なのは「α-ピネン(アルファ-ピネン)」。ほとんどの木に含まれているため、森に入ったとき最初に感じるのはこの成分です。成分が鼻に入ると鼻腔の上にある粘膜を経て脳を刺激し、気道からも血管に乗り体内をめぐる。こうしたことから、香り成分はたとえ把握できるレベルではなくても、人体に影響を与えるんですね。
木の香りだけでなく、空気がきれいだとか、緑が心地よいとか、そうした複合的な癒し効果が森林にはあるんです。副交感神経活動が活発になって、ストレスホルモンが減ったり、免疫力が上がったりね。

 Yohaku ヨハクコラム 森

――そうした研究は何年前くらいから始まったんでしょうか?

日本は樹種が多く古くから成分研究はすすめられていましたけど、森林浴については40年ほど前からですかね。80年代前後にドイツで、「森林には人間を元気にする作用がある」と発表され、日本もそれにならい、当時、若者たちの心身を鍛えるということで森のなかでのハイキングを推進した。青少年の非行防止が当時の目的だったと思います。 「森の香り」という言葉がさかんに広がったわけですが、はたしてその香りってなんだろうとなったんですよ。どんなもので、どれくらい出ているのか、どんな影響をあたえるのか、林野庁の研究所を中心に分析が始まったんです。

――今回、「Yohaku」でも使っているヒノキ、クスノキ、スギ。個別にはどういう効果があるのですか?

ヒノキは、特徴的な温かみある香りを持ちますね。「a-ピネン」が多く含まれ免疫力を高めてくれる。疲労回復、安眠、リラックスのほか、やる気を引き出してくれます。

――確かに、神社を訪ねたときやヒノキ風呂には癒しを感じます。やさしい香りですね。一方、クロモジなどクスノキ系の枝を少し折っただけでも、さわやかな香りが強くします。

クスノキの由来が、クサノキ=臭木、匂いが強いので他の木に比べて奇しを意味するクスシキキ=奇木といった説を持つほど強い香りがありますね。この芳香成分はカンファー、カンフルといって、樟脳として使われてきましたね。血行促進、鎮静作用、リラックス効果があります。

――カンフル剤のカンフルとは、樟脳のことなんですよね。ものすごく元気が出そうです。

スギの精油成分には悪臭を取り除いたり、ダニの繁殖をおさえる抗菌作用があります。香りには、脈拍を下げ、リラックスする効果がありますよ。スギの木造校舎で学ぶ生徒は集中力がある、という研究もあるんです。

今回の、ヒノキ、クスノキ、スギのうちヒノキ、スギは日本だけのものですし、アジアで多くの品種が生えているクスノキですが、九州に生えているものは日本独自の香りといっていいでしょうね。

今までの香りの商品は、海外の材料を使ったものが多かった。日本人もあまりに親しみすぎてわからなくなっているかもしれませんが、「こんなすばらしい香りが日本にはあるんだ」ということを再確認し、それが森林を大切にすることにつながっていってほしいと願います。

 Yohaku ヨハクコラム ヒノキ

Profile

Yohaku ヨハクコラム 谷田貝光克

谷田貝 光克 Mitsuyoshi Yatagai
1943年、栃木県宇都宮市生まれ、東北大学理学部化学科卒業、同大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)。米国バージニア州立大学化学科博士研究員、米国メイン州立大学化学科 博士研究員、農林省林業試験場林産化学部研究員、同炭化研究室長、農水省森林総合研究所生物機能開発部生物活性物質研究室長、同森林化学科長。東京大学大学院農学生命科学研究科教授、秋田県立大学木材高度加工研究所教授。同研究所所長・教授、フレグランスジーナル社香りの図書館などを歴任。
現在は、(NPO)炭の木植え隊理事長、(NPO)農学生命科学研究支援機構理事長、グリーンスピリッツ協議会会長、炭やきの会会長、日本木酢液協会会長、木酢液認証協議会会長、木質炭化学会名誉会長などを務める。

インタビュー・文: 柳澤智子(柳に風)
撮影協力: TOKYO CRAFT ROOM